音楽に愛をこめて

音ゲーに関する話や日常で感じたことで、140字で収まらなかった思いをつらつら書いています。

「音ゲー譜面はラブレター」

表題の言葉はTAGさんのツイートから。私はこの言葉が大好きだ。

自分の腕前との兼ね合いで正規譜面が見切りやすいという事情もあるのだけど、何らかの意図をもって作られたであろういわゆる「正規譜面」はランダムで崩すことなくプレーをしたいという気持ちがあって、IIDXを始めたあの日から今まで、私はずっと初めてプレーする譜面は必ず正規オプションを選んでいる。(そういう意味では、基本的に正規でプレーするSDVXはより表題の言葉がしっくりくるような気がしている)

そうはいっても、何の根拠も無く私が勝手に「きっと譜面制作者はこの配置に何らかの意図を込めているんだろうな~」と思っているだけだったから真偽のほどはわからない。つまるところ、ただのオタクの妄想でしかなかった。譜面制作者だって人間だし、大量に抱える業務タスクの中で「ま、こんな感じで良いでしょ! 及第点! 完成!」となることだってあるかもしれない。
けれど、実際に譜面を作られていたTAGさんがこの言葉をタイムラインに流してくださったことで、いちオタクの妄想が現実になりかけた瞬間だった。
主語が無いから(敢えて明言しなかったんだと思っている)受け取り手の解釈に委ねられるけどその前後で呟かれていた「譜面を褒められるのは曲を褒められるのと同じくらい嬉しい」という言葉と併せて考えたら多分そういうことなんだと思う。リップサービスだと言われればそれまでだけど、そういう側面だって少しはあるはずなのだ。多分。きっと。おそらく。

日々進化を続けるトッププレイヤーに立ちはだかるような「これ人間がさばけるの?」と思ってしまう配置だって、制作者からのちょっとばかり歪んだ愛情表現なのかもしれない。あなたならこれくらい出来るでしょ!みたいな。ツンデレってやつ。一般プレイヤーの自分からすると、そういう譜面を見るととんだどSだなとか思っちゃうんだけど。
綺麗な旋律のピアノがメインの曲だったら美しいほどの階段譜面だったり、キックの強い存在感のある曲だったら、そのキックを軸みたいに目立たせるような譜面だったり。ラブレターとは少し趣旨がずれてしまうんだけど、やっぱり意図があるんだろうなって思ったりする。あまりにも難しい譜面はもはやラブレターというよりも「挑戦状」という言葉の方がしっくりくるのかもしれないけどね。

 

そんなことをぼんやり考えていた時に、ふと頭に浮かんだのは私が尊敬しているMAD CHILDさん(以下、彼の愛称である“まっちゃさん”で統一させてもらう)がSDVXの譜面制作について話していた事だった。

まっちゃさんいわく、音ゲー譜面のセオリーとして「音階が上がっていくのであれば譜面のノーツは右上がり、音階が下がっていく場合はその逆(左下がり)」というものがあるらしい。「音楽に合わせてボタンを叩く」という性質上、一番大切なことは違和感が無いかどうか。そうなると、音階が上がれば視覚的にも上がっていくように見えることがスムーズとのこと。だけど、“あえて意図的に”そういう配置にしないこともあるんだとか。
きっと、この“意図的”という部分が、制作者の想いだったりするんだろうなあ。
そもそも、SDVXはコンセプトが「自分のプレーで曲にエフェクトをかける」ことだから、他のゲームみたいに自分自身が演奏する(=ボタンにキー音がアサインされている)ものとは少し毛色が違う気がしている。だからこそ、譜面制作者によってその色が濃く出てくる。そもそも、まず大前提としてBEMANI機種は基本的にアーティスト名は表示されるけれど譜面制作者は公表されていない。SDVXは曲ごとにエフェクターとして譜面制作者が表示されるから自分のような面倒なオタクにとっては大変に有り難いことなのだ。

さてさて、少し話は戻って、私は本当にまっちゃさんの手掛けた譜面が好きだ。一言でその魅力を表すのであれば「美しい」。それに尽きる。
もう少しかみ砕いて言えば「原曲を邪魔しない、むしろ原曲の良さを活かしながら自分の特徴を色濃く反映させた譜面」と言い換えられるかもしれない。
実際にご本人からも「どれだけ原曲を活かせるかを重要視している」と言うような言葉が出ているからそういうことなんだろう。
SDVXを代表するコンポーザーであり私が推させてもらっているYoohくんとの会話の中でまっちゃさんは「上海紅茶館(Yoohくんが紅魔館リミコンで採用された曲。正式名称は『上海紅茶館~ Chinese Tea Orchid Remix』)を聴いた時に、絶対あの直角は入れようって思ってた」と言っていた。
まっちゃさんはこの曲を聴いた時に「原曲を最大限に活かしながらも、彼の色は強く出ていて、THEボルテというような疾走感のあるリミックス」だと感じたらしい。そういう理由からなのか、奇をてらわずにセオリー通りに音楽に合わせてバチバチとボタンを叩かせ、その後にある一瞬メロディー音が無くなる部分に、この曲から感じる圧倒的な疾走感を止めることのないエフェクトは何なのかと考えた時、瞬時に思い浮かんだのがその疾走感のまま勢いで直角のつまみをスパン!と入れることだったそう。

↓この部分だと思います

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出典:SDVX譜面保管所EXC様 https://sdvx.in/

 

その話を聞いたYoohくんは「俺もそれ(そのエフェクト)すごく良いなって思いました」と答えている。
そのやりとりを思い返した時に感じたのは「譜面はラブレターって、もしかしてプレイヤーだけに対してではなく“作曲者”に対するものでもある……?」ということだ。
自分はこういう解釈をしている、ここを楽しんでもらいたい、場合によってはここで苦戦してほしいというものを言葉を用いずに配置だったりエフェクトで表現しているのでは?と。

そういうオタク特有の飛躍論理を展開し、都合の良い解釈をした私はそれに関連してまた別の話を思い出した。
これもまっちゃさんが話していたのだけど、C-Showさんとのお話の中で「パニホリ(EXH)は音に合わせてノーツを置いていない。あのグルーヴ感を体感してほしいからあの配置になったんだろうな、と同じ制作者として俺は思う」という発言。

このあたりの部分です↓

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出典:SDVX譜面保管所EXC様 https://sdvx.in/

SDVXプレイヤーなら何となくわかるであろう、「C-Show譜面と言えば!」なあの出張配置。エフェクト・譜面制作担当はごましおくんさん(何か違和感あるのでごましおくんと呼ばせてもらいます)。
これこそまさに、制作者の想いが詰め込まれているんじゃないだろうか。
先にも述べた通り、SDVXはボタンを叩いて音を出すゲームではない。自分でDJよろしくエフェクトをかけることを楽しむゲーム。だからこそ出来る、だからこそ活きる配置だと本当に思う。
C-Showさんの一番新しい楽曲であるLubedeRがその最たるものだと思っているのだけど、この譜面からは本当にごましおくんの愛を感じたんだ。
サンプリングボイスで「Left Channel」とある部分は青つまみ、「Right Channel」とある部分は赤つまみをひたすら操作させられる。しかも、筐体でイヤホンを挿して聴くと片側ずつからしか音が聴こえないのだ。私は初めて筐体でプレーした時本気で鳥肌が立った。
この曲の採用コメントを読み、まっちゃさんとの作曲小噺を聞いた私が思ったのはC-Showさんが数年間悩み抜いてSDVX公募の最高峰・KAC楽曲として作ったこの曲。「曲」で表現したSDVXへの想い(そもそも、タイトルのLとRが大文字なのも、そういうことなんだと私は思っている)を、同じく彼の譜面を長年担当してきたごましおくんがそれを受け止めて「譜面」という手段で視覚化し、プレイヤーに伝えようとしたのかなと。
特にこの譜面はC-Showさんの楽曲の中では最高難易度で、初めての19だった。彼の曲の譜面は「初見で対応できる初見殺し」と呼ばれることもあるが、この曲は多くのプレイヤーが初見ではその配置に惑わされたとネット上で見ることが多かったように思う。何となく、ごましおくんの「プレイヤーに対する挑戦状(ラブレター)」であり、「コンポーザーに対するラブレター」でもあり、そういうものが色濃く出てる気がしてならないのだ。

そう思うと、本当に譜面制作に込められた想いって深いなあと感じるわけです。
何だか「ラブレター」とはだいぶ意味合いが違ってきたけれど、何らかの思いが込められているという意味では、むしろその想いを表現する手段を「ラブレター」だと表現したTAGさんのワードチョイスがものすごく素敵なんだろうな。

私は本当にまっちゃさんの譜面が好きだ。(二度目)
こういったお話を聞いたからというのももちろんあるのだけど、原曲への愛やリスペクトをすごく感じられるからだ。私みたいな上級者でないプレイヤーでも「エフェクトをかける楽しさ」を感じられるから。プレーしていて本当に楽しいなって思える。
低難易度の曲から、KAC決勝楽曲のような最高難度の曲まで幅広く、それでいてそのレベル帯にあった「SDVXらしい」譜面を作られるのはプレイヤー、コンポーザー、その曲への愛があるからこそだと思う。
Yoohくんの「Destiny」という曲の譜面を担当したのもまっちゃさんなのだけど、この曲って中盤のソフラン地帯のBPM遷移が今までのいわゆる「Dシリーズ」と呼ばれる楽曲のBPMが遅い順からどんどん加速していくという仕掛けがある。これはYoohくんがそうやって作ったわけだけどまっちゃさんはこの曲を聴いてすぐにその意図に気付いたそうで。だから、どうにかそこを譜面に落とし込みたかったと言っている。
実際はあの部分って音がほぼないから出来なかったらしいけども、そういうギミックに気付けた部分は「愛」以外の何という言葉で表現したらいいのだろう。
そもそもこの曲が公募で送られてきた段階で「本気で最優秀賞狙いに来たな。これが(Dシリーズの)最後になるんだろう」と感じたという話からも、作曲者の想いをしっかり受け止められるところが本当に尊敬しかないんですよね。
Yoohくん自身も初めて公募に合格したDynastyが収録されたときに「ここからDシリーズを始めて、最後は『Destiny』で締める」と決めていたそう。まっちゃさんはそれを受けて「普通に考えたら、Dから始まってYで終わる単語っていうと、もうDestinyしかない。ワードとしても強いし」と言っていたけれど、私は彼だからこそそれに気付けたんだと心の底から思っています。Yoohくんのファンとして、そしてMAD CHILD譜面のファンとして、Dシリーズの集大成をまっちゃさんが作ってくれて本当に良かった。
それに、こんなに愛に溢れた人がSDVXの譜面を作ってくれていることに対して感謝の気持ちしかありません。
それ以外にもYoohくんの曲の譜面ってまっちゃさんが作ってくれることが多くて、まあこれがどれもこれもプレーしていて楽しいんですよ。脳がとろけそうになるくらい気持ち良く叩ける。
私の中で、まっちゃさんは「つまみの魔術師」なのだ。彼の作る譜面の直角つまみの置き方が天才のそれ。本当に疾走感を止めずに、曲にノリながら絶妙なタイミングでつまみをスパン!と回させてくれる。さすがにうねうねしたつまみとか、複雑なつまみに関しては代名詞でもあるけれど、Hirayasu Matsudoさんの独壇場だと思っていますが。
Yoohくんの最新楽曲「Enter The Fire」がそんなことある?ってくらい気持ち良いので是非プレーしてみてください。めちゃくちゃ気持ちの良いところで入る直角、曲の盛り上がりの勢いそのままにゆっくり視点が変わるあのギミックがマジでまっちゃさんって天才なんだよなって初見プレーでひっくり返ってしまいました。SDVXをプレーしていて、初めて言葉を失うくらいの高揚感を味わった譜面と曲です。
その他にも良い譜面っていっぱいあるし、言いたいこと山ほどあるんだけど、全然終わりそうにないのでこのくらいにしておきます。あとDecoyも死ぬほど楽しいぞ。

 

音ゲー全般の話っぽいタイトルから、SDVX特化の話でした。
ずっとずっとすごいな、って思っていたまっちゃさんへの愛をいつかどこかで発散したい!!と思っていたんですが、表題のTAGさんのツイートを見て今しかない!と思ってこの機会に愛を叫ばせてもらいました。

最後になるけれど、私にとって譜面制作者の方々は「翻訳者」のような存在だ。
コンポーザーの方が曲に込めた想いを独自の感性で解釈し、それを「譜面」という手段でプレイヤーである私たちに伝えてくれる存在。
そこにはプレイヤーへの愛も、そして、その曲をこの世に生み出してくれたコンポーザーへの愛も全部含まれているんだろうな。
そう考えると、改めて「音ゲー譜面はラブレター」だという表現をされたTAGさんの“意訳”は本当に素敵だなあと思う。
きっと、私が愛してやまないBLACK or WHITE?(SDVX側の譜面制作者はこれもまっちゃさんなんだよなあ)がIIDXに移植されたときのアナザー譜面のノーツ数が2013であることは偶然ではないし、時間差CNだって何らかの意図があるはずで、そうだとするならばそこには本当に大きくて美しい愛が込められているんだろうなとしみじみ思うのだ。

 

こういうことがあるから、やっぱり音ゲーはやめられない。