音楽に愛をこめて

音ゲーに関する話や日常で感じたことで、140字で収まらなかった思いをつらつら書いています。

オタク、(自称)一般人のファンになる

「俺、お前とは違って活動者でも何でもないただの一般人なんだけど」

と驚き半分、引き気味半分で彼は言った。2年前の話だけど、私は未だにこの言葉を忘れられずにいる。
自分が投げたスーパーチャットへの反応がこれだったんだから忘れようがないんだけど。

 

彼はとある配信者(便宜上「推し」と呼ぶ)の学生時代からの友人だ。
私はこの推しのファンでありながら、それ以上に本人曰く「一般人」である彼のファンだ。
以下、私が書き連ねる話は全て配信から得た情報とそこから類推される事柄になるので、100%正しいとか必ずしも確証があるものではないということ、強めな自己解釈に基づく話であることを先に断っておく。

 

今から2年くらい前の話だ。
Youtubeのおすすめで推しの配信が出てきて、あまりにも暇すぎて見てみたことがきっかけだった。当時の私は推しのことをほとんど知らず、別の配信者の配信で名前だけは知っていたというレベルだった。
暇つぶし程度になれば、と思って見始めたのだがこれがまあ面白い。
推しはその時とある企画に挑戦していて、その企画自体は単純なのだが、リアクションも大きいし、話も面白い。
推しはゲームのプレイ配信を行なっているのだけどこのゲーム、なかなかプレイ中に話すことは難しいのだ。キリが良いところや一息つけるようなところで話すと言うのがこの界隈での他配信者の通例でもあった。
しかし推しは違った。一生喋っている。黙ることがまるでない。それでいて、プレーには華があって実力も申し分ない。推しは過去にこのゲームの全国大会決勝に出ているほどの腕前の持ち主のため、当然といえば当然なのかもしれないが、そのことをこの時の私は知らなかったのですごい人もいるもんだなあ程度に思っていた。純粋に配信が面白かったので時間が合う時だけぼちぼち見る、というスタンスだった。そんな中、私は推しの配信の中で彼の存在を知ることとなる。

推しの配信を見始めて数週間後、私のオタク人生は大きく変わり出した。いや、狂い出したと言った方がいいかもしれない。
とある日の推しの配信内容はゲームプレイではなく、雑談だった。どうやら私が推しを知るきっかけとなった企画を成功させることができたということでその総括を行うらしい。
推しへの情報がほぼゼロだった私は当然のようにオタク心が疼き「この人の人となりや経歴をもっと知りたい!!!」と配信を心待ちにしていた。
その時は配信を複数人でやるだなんて思わなかったし、それに、まさか推しではない別の人間にハマるだなんて思いもしなかった。

 

配信を開き、耳に流れ込んでくる推しの落ち着いた低めの声とは対象的な透き通る美しい声、そして聞き取りやすい話し方。
この段階で半分惚れた。何を隠そう、私は声フェチなのだ。こんな綺麗で澄んだ男性の声を聴いたのは久しぶりでとても耳が潤った。
それに加えて、あれだけ口の立つ饒舌な推しに負けないくらいの語彙力と会話の上手さ。
会話の中で出てくるエピソードから実感できる頼まれたことは断らずに受け入れて最後までやり切る包容力と責任感。
そして最終的には何やかんや推しに流され、そしてリスナーのノリに流されて罰ゲームもどきを甘んじて受け入れてしまうノリの良さ。

 

私が色々なジャンルにおいて「こういう人好き!」と思う要素を余すところなく詰め合わせたような男。それが、彼だった。
とはいえども、私は推しのことをもっと知るためにこの配信を見ていたわけで。
私は数週間推しの配信を見ていて何となく「自分の芯が明確にあって、絶対に折れない強い男の人」だと感じていた。企画はもう何百回も失敗していたと聞く。足掛け一年行っていたのだから当然だ。それでも推しは一度も企画を止めることがなかった。
見目も良い、話も面白い、リスナーも多い。
私は推しに対してどこか隙の無さも感じていた。少し語弊があるけれど、どんなことがあっても絶対にへこたれずに立ち向かう姿からそういう印象を受けたのだ。
だが、この時の推しはどうだろうか。
学生時代からの友人である彼を目の前に、ものすごく柔らかい笑みを浮かべていて彼にガンガンいじられても楽しそうに応じているのだ。もちろん、企画が成功したことに対する達成感や解放感もあったと思う。それでも、推しが彼と話す中で見せる屈託のない笑顔はとても魅力的だった。
そして、私はその推しの笑顔を引き出している彼に対してそれ以上に惹かれてしまったのである。

二人の会話の中でこんな発言が彼から出てきた。

「確かにあの時のお前は……、本当に格好良かったよ」

コメント欄で推しが全国大会の決勝に出た際のことに言及していたリスナーのコメントに対して彼が発した言葉だ。
この言葉は私の心の奥に重く響いた。
しみじみそう言う彼の表情はわからない。何故なら彼は絶対にカメラに映らないからだ。私が配信から得られる情報は彼の声だけ。それでも、彼のあの口調や声色からは言葉以上の重みというか含みというか、そういうものを感じてしまった。
あれだけ推しに対して毒を吐いて、過去の秘密を暴露しようとしていた彼の本音を聞いたようで、より彼に心をがっちりと掴まれてしまったのである。
ちなみに、私はこの会話で推しが全国大会の決勝に出ていたことを知った。(そりゃプレーしながら話せるくらい上手いわけだ、と納得した)

 

この配信を皮切りに、私はひたすら過去の配信や動画を見返した。
その中で一番印象的だったのは、推しととある人物がコラボした配信に何故か彼がゲストとして呼ばれていたことである。その配信は、この界隈で知らない人はいないのではないかというほど著名で実績もある人物(以下便宜上「プロ」と呼ぶ)が企画し行ったものだ。
「え!?流石に、何かの間違いだよね」
私は彼がゲストだと聞いた時全く信じられなかった。
だってプロの配信に何で呼ばれるの?ていうか、彼は推しの趣味友達とかでもなく学生時代からの友人なんだからプロとは何の関わりもないじゃん?そう思っていた。

その配信は、プロが考えた企画を24時間以内にクリアするというものだった。
企画内容は基本的にゲームのクリアだが、そこに縛りプレイなどをつけながら行うもので、トッププレイヤーであるプロと推しが二人で協力し、時にはバトルしながらどんどんこなしていくという流れだ。それを24時間、ぶっ通しで行うわけである。


そういうわけで、言葉を選ばずに言えば彼は空気だった。
それはそうだ。別に彼はトッププレイヤーでも何でもない。このゲームをプレイしたことはあり知識はあるけれど実力は二人に遠く及ばないしいわゆる一般のプレイヤーでしかない。
それでもそういう「一般プレイヤー」の立場からリアクションとかをしていて、私は「すごいなあ」とか「でも別にいる意味なくない?」とかいろんなことを思っていた、のだが。

先に述べたように24時間ぶっ通しだ。つまり、プロも推しも寝ていないのである。
二人ともヘロヘロだったが、さすがそこはプロ。そんな中でもいつもの調子で会話をしながらミッションをクリアしていった。

しかし、推しは違った。推しはとにかく自由なのである。
プロの配信に相方として呼ばれたにも関わらず「もう無理」と普通に寝始めてしまったのだ。
いや、どうすんのこれ……と思っていると、結局企画は一旦休憩で別のゲームをやろう、ということになったのだが、その時にプロの隣で話を聞き、相槌を打ち、時にはアドバイスもし、盛り上げていたのが彼だった。
実は彼は他のゲストと入れ替わりで登場しているので徹夜でも何でもなくいたって元気だったのだ。彼はプロの相棒代わりとして振る舞っていただけでなく、ゲームの準備や片付けも手伝っていた。
何が格好良かったかって、それが押し付けがましくなくてあまりにもスマートだったところだ。プロから何かを頼まれたわけでもない。けれど二人でやった方が早そうなことにはさっと手を差し伸べる。けれどプロの家だということもあり必要以上に物に触れようとしない。
いや、言葉にしたらそれだけなんだけど、本当に格好良かったのだ。こういうことがスマートにできる男はなかなかいない。
神。天才。最高。
そして、その一方で眠っている推しに対しても体調などを気遣っていた。おいおい、どれだけできる男なんだ???

その後、推しが目覚めた後は企画再開となったわけだが、彼は何事もなかったように脇役に徹していた。
すごいプレーが出れば共に盛り上がるし、二人の会話に割り込んでいくわけでもない。少し無言の時間が出来るとそっと話題を振ったりする。
リスナーが求めているのはもちろんプロのプレイだし、その相方である推しのプレイだ。そしてその二人の間で交わされる会話もまたそうだろう。それを彼は誰よりも理解していたのだと思わざるを得ないのだ。
私はやはり、彼のその人間性に魅了されてしまったのである。

余談だが、彼は自宅にあるとあるゲームのコントローラーをこの配信のために持ってきていた。それはプロがそのコントローラーを使ってゲームをプレイするためだ。
それなのに、推しはプロに向かって「でもそれ、こいつ(彼のこと)こんくらい出来てるし。な?」とか謎のマウントを取っていた。まあね、わかる、わかるよ(???)
自慢の友人なんだろうな、とか思っちゃった。知らんけど。
そういえば別の配信で彼が推しに対して「俺をトッププレイヤーたちが集まる飲み会に連れていくのやめろ」と冗談混じりに話していたことをその時に思い出して、なるほどねえとか思ってしまったよ。
彼の性格なら本当に誰とでも打ち解けられるんだと思う。嫌味でないリスペクトも感じるし、でも自分の意見もしっかり述べるし。
彼とプロがどう言った関係なのかはわからないけど、もしかしたら飲み会で顔を合わせたことがあるのかな?とか思ったりした。知らんけど。

 

もう一つ私が大好きなエピソードがあって。
推しが過去に自分主催のゲームの大会を開催した時、その企画や準備は彼が手伝ったのだと配信で話していた。
二人で深夜まで準備して、大喧嘩しながらも無事に開催できたらしい。
青春だなあって感じはするけれど、それよりももっと私の心に刺さるものがあった。
何度も言うけれど、彼はトッププレイヤーではない。トッププレイヤーである推しの友人だ。この大会だって彼が手伝わなければいけない理由なんてどこにもない。大喧嘩をしたくらいなのだから「それだったらお前一人でやれよ」と企画から降りたっていいはずなのだ。
けれど、彼はそれを選ばなかった。最後まで推しのために、この大会に参加してくれるプレイヤーのために全力を尽くしたのだ。仕事でも何でもない、趣味である企画に徹夜までしてやり遂げるその責任感。本当に人間として格好いい。

私は社会人の端くれとして短くはない期間サラリーマンをしているけれど、仕事もありながらここまでやり切るのはそんな簡単な話ではない。同じサラリーマンとして尊敬以外の感情が出てこないのだ。
当時の彼もおそらくサラリーマンだっただろうが、何か報酬があったのかもしれない、それでも自分だったらよっぽどのことがない限りやり遂げられないと思う。だから、余計に尊敬の念が湧き上がってきてしまう。
それと同時に、最後まで投げ出さずに付き合ってくれるような友人がいる推しが羨ましくも感じてしまった。

それに、私が推しを知るきっかけとなった企画も、今や推しの代名詞と言っても過言ではない企画も、元はと言えば原案を考えたのは彼だと言うではないか。
何その企画力?どう言うこと?やっぱり天才なのでは???

代名詞と言える企画に関しては別に特段奇抜なものではない。すでに他の人がやっていても何らおかしくはないものだ。けれど、私が思うにその企画は配信だからこそ映えるのであり、そして推しがやるからこそ、面白いのである。

出来そうで出来ない。出来なさそうで、出来る。

推しの実力なら理論上80%以上は成功するはずなのに、突然牙を剥き始めるこの企画。
彼が原案を考えた何がすごいかって、友人である推しが一番輝ける企画を意図せずして生み出せたところだと思っている。(意図していたのなら余計にすごい)
彼からすれば気の置けない友人でもあり、トッププレイヤーでもある推しに対して「お前ならこのくらい出来るだろ」というある種の挑戦状でもあり、煽りでもあるのだろうが、それは信頼関係というか尊敬の念があるからこそ、だと思う。あ、この辺全部オタクの妄想なので事実は知りません。真逆かもしれない。
最終的に今の形に整えたのは推しなので、面白く魅せられているのはもちろん推しの力なのだけど、0から1を生み出したのが彼なんだよね。1を100にしたのが推し。名コンビよ。0から1を生み出すって本当に大変だから本当にすごい。かっこいいなあ。
そして、これだけ色々なことが出来てプロの配信に呼ばれたり推しの配信に出たりしていても当の本人は微塵も前に出たがらないところが、一番かっこいいし惚れてしまう。自分が承認欲求の塊なので、そうではない彼が眩しく見えてしまうのだ。
彼が承認欲求を満たしたいと思うのなら、目立てる土壌はすぐそこにある。推しの配信に出るだけで、何百、何千の人たちの目に触れることができるのだ。
事実、推しは何度か彼を配信に誘っているらしい。しかし彼はそれを全く望んでいないようで「全て断られてる」と推しは話していた。
本当は寂しいけれど、そう言うところも好き。かっこいいしかない。

 

 

コンポーザーを好きになり日々狂っていたあの頃、ずっと自分の中でわだかまりがあった。
それは「環境が変われば、付き合う人も変わってしまう」と言うことだ。
何度もこのブログで話しているけれど、私は初代フロア勢が好きだ。
だから「推し」であるししょうさんの相棒はとぱぞさんだし、ゆーくんの相棒はぶらっきーくんだと今でも思ってしまっている。私は本当に二人の合作が好きなのだ。

でも、現実はどうだろうか。
もう二人の合作なんて5年近く出ていないし、今後も出ないんだと思う。私が勝手に相棒だと思っている、いや、過去には間違いなく相棒だった彼らは別のステージ、新たな場で別の相棒と活躍している。相棒が変わってしまうのも、それは当たり前の話だと、思う。だって活動の場、立場がが変わってしまったんだから。
私が想いを寄せているあのユニットは解散したわけではなく、事実上の休止なだけで、二人の繋がりが急に途絶えたわけではないのだろう。自分がそう信じたいだけかもしれないけど。
私も学生時代の友人とSNSは繋がっているけれどもう何年も会っていない。忘れた頃に連絡が来て、でも会わずに終わったりすることがほとんどで、一緒に遊ぶのは今熱中している趣味が同じ、オタ友ばかりだ。

そして今、私はあの頃と同じ苦しみを味わっている。
根本は同じようなものなのだろう。
「一般人」の彼はどこにでもいるサラリーマンだ。たまたま長年付き合っている友人が界隈での有名人なだけで、彼は彼でまた同僚や友人がいるわけなのである。
まだ推しが配信を始めたばかりの頃は彼に配信の手伝いもしてもらっていたと聞く。一番古い動画も彼と推しが二人で今とはまた別のゲームをしているものだ。
けれど今は推しがかつて、頂点に手が届きそうになったゲームに打ち込んだ時期に築いてきた友人たちとの配信が圧倒的に多い。むしろ複数人での配信ではこれがほとんどだ。
私だって頭では理解できているつもりだ。当然、推しがゲームを楽しくやっているのだから、同じくトッププレイヤーの友人たちと交流し、一緒に配信するのが自然な流れ。
だが、彼に魅入ってしまった私は、どうしても割り切れないのだ。
昔みたいに一緒に動画を撮ってほしい。お互い煽りあって、昔話に花を咲かせて、最後は笑いあう姿が見たい。「一般人」の彼を見られるのは推しの配信しかないのだ。
こんなもの、厄介なオタクのエゴでしかない。そんなこと、私が一番わかっている。
そもそも彼自身が「一般人なのにどうして」と言っている時点で、私が「ファンです」と言うことすら、迷惑になってしまうかもしれないのだ。
でも、彼が「どうして」と疑問系で終え、その回答が出なかった以上、その後に続いたかもしれない彼の本音を知ることはできない。嬉しいのかもしれないし、迷惑なのかもしれない。どっちなのかを知ることは一生無いだろう。
だから、誰にも言えずにずっと心の中で「かっこいいなあ。やっぱり、推しもいいけど彼が好きなんだよなあ」と留めておいておよそ2年。

結局あれ以来、一度も彼は配信に登場していない。
推し自身も彼を無理に誘うことはないだろう。そもそも彼自身が配信に出ることに後ろ向きであり、他方で推しには彼以外に大勢の友人たちがいる。現実的にはもう無理なのだ。流石に、私もそこまで鈍感ではないから覚悟は出来ている、と思っていた。
でも、2年の月日が流れても未だに諦めきれず、こうやってブログに書いてまでも消化しきれないこの感情は一体どう処理すればいいのだろうか。

 

文字に起こしたのだから、いつか、この気持ちに踏ん切りがつきますように。
そしていつか、もう一度だけ、推しの名前を呼ぶあの透き通る青空のような爽やかな声が聞けることを願っています。